イモ弁、逮捕されたってよ

前回までのあらすじ

刑事事件の手続をみなさんに理解してもらうためには、何事も経験!ということで、イモ弁くんには実際に逮捕されてもらうことになりました!

・・・。

※よい子のみんなは、絶対に真似しちゃダメだぞ!

逮捕当日

ぴんぽーん。

・・・?

イモ弁さんいますか。

わたしですが。

がちゃっ

イモ弁さんね。私、芋洗署の芋田です。あなたに逮捕状が出ています。

?!?!
え?!何かの間違いでは??

この逮捕状を見てください。今から読み上げますから聞いていてくださいね。

・・・。

「被疑者は、令和3年8月2日午後6時30分頃、東京都●●区●●1丁目2番地3号所在スーパーイモちゃん芋洗店店内において、同店店長芋山太郎管理の片栗粉1袋、長ネギ1本、豆腐1パック、合い挽き肉1パック、チューブ入り調味料1個及び小瓶入り調味料(花椒)1個(時価合計2000円相当)を窃取したものである。」。
はい。読みましたね。
あなたには、窃盗の疑いがかかっていて、裁判所から逮捕状が出ています。

第201条1項 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。

刑事訴訟法

・・・あわあわ。

はい。じゃあ逮捕しますからね。両手を前に出してください。

・・・。

令和3年9月1日午前8時16分逮捕!はい、連行して。

がちゃっ(手錠をかけられるイモ弁)

ひいっ・・・。

第199条1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

刑事訴訟法

かくして窃盗の容疑で逮捕されたイモ弁・・・。
イモ弁の命運はいかに!!

・・・あんた誰だよ。

弁解録取手続@警察署

芋洗署に到着したイモ弁

はい。じゃあここ座って。
今からあなたの言い分を聞きますからね。
その前に、あなたには黙秘権といって、話したくないことは話さなくていい権利がありますからね。
あと、弁護士をつける権利がありますからね。知ってる先生とか、事務所の名前とかあれば言うように。あと、特定の先生が分からなければ弁護士会から派遣してもらうこともできるから。
わかった?

第203条1項 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

刑事訴訟法

は、はい・・・。

それじゃあ聞きますけどね。
スーパーイモちゃんで万引きしたの?したんでしょ?

・・・。

黙ってても分からないよ。
それとも何?話すと不利なことでもあるの??

あ、いや、だって今、黙秘権があるって・・・。

黙秘権はあるよ。でも何も話さなかったら何も分からないじゃない。
それとも何?何か話せない理由でもあるの?

・・・い、いや・・・。
あ、あの弁護士を・・・呼んでください。

弁護士はいそがしいからそんなすぐに来ないよ。
その間に話してよ。
話せば早くここから出られるよ。

・・・や、やりました・・・。

はい。やったのね。
なんだ、話せるじゃない。
ちゃんと話してくれるなら悪いようにはしないからさ。

それで?なんでこんなことしたの?

・・・麻婆豆腐が食べたくて。

・・・・・・。

かくかくしかじか

(1時間後)

はい。じゃあ、あなたの話した内容を弁解録取書にまとめましたからね。これ見てね。今から読みますから聞いててね。間違っているところがあったら言ってね。

ぺらぺらぺら・・・

あ、あの、今の「チューブ調味料は『ポッポドゥ』が一番大好きなので盗ろうと思い」ってところですけど・・・。

なに?

わたし、そこまで「ポッポドゥ」好きじゃないですし、そんな話してないです。

え?じゃあなに?「ポッポドゥ」は嫌いなの?

い、いや、嫌いって訳ではないん・・・

じゃあやっぱり好きなんじゃない。
店に入る前から「ポッポドゥ」を盗るつもりだったんでしょ?

・・・まあ、そう言われると、そうですけど・・・。

じゃあ、そんなに変わらないよね?
このまま、訂正しなくて大丈夫ね。

・・・。

大丈夫ってことでいいよね。
はい、それじゃあ、内容に間違いがないってことで、この調書にサインと指印を押してもらうから。

え、それやらなきゃいけないんですか。

やらなきゃだめ。取調終わらないよ。

・・・わ、わかりました。

弁解録取書に署名、指印をするイモ弁

取調べにおける誘導・利益供与の約束の禁止

ぴぴーー!!
はい、ダメダメ!そこまで!!

・・・・?!?!
この声は??

なに?急に独り言かね?

イモ弁くん、私はあなたの脳内に直接語りかけています。
そのまま聞いて下さい。いいですね。
私は中の人です。安心して下さい。

あ、あんたはさっきの・・・!

そう、お察しの通りただのイケメンです。

いや、察してない。

あのね。みんながみんなとは言いませんけどね、警察官の中には法律無視で適当なことやっちゃう人がいるんですよ。
それにしても、この警察官は酷いね。

そうなの?
なんか話しやすい感じして悪い人には見えないし、話したら悪いようにはしないからとかも言ってくれたし・・・。
何より警察官が法律無視することなんてないでしょ・・・?

第168条1項 取調べを行うに当たつては、強制、拷問、脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない

2項 取調べを行うに当たつては、自己が期待し、又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により、みだりに供述を誘導し、供述の代償として利益を供与すべきことを約束し、その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない

犯罪捜査規範

取調べでは、供述の見返りに利益を与えるかのような誤解をさせてはいけないんだよ。
逮捕された人は早く解放されたいと思うのが普通だから、警察官としては、黙秘権を行使させないために「話せば早くここから出られる」と利益誘導をすることがあるんだけど、これをしてしまうと何でも良いから話さなきゃという気持ちから、つい警察官の口車に乗せられて経験したことがない事実や記憶にない事実もあたかもあったかのように話してしまうことがあるんだね。

弁護士と会うまでは話をしない

そうなのか・・・。じゃあ話さなくて良かったってことですか?

少なくとも、弁護士と会ってアドバイスを受けるまでは、話をしない方が良いんだ。
なぜなら、一度話した言葉は二度と元には戻らないからね。何が自分にとって有利な事実で不利な事実ってわからないでしょ?当然記憶が曖昧なことも聞かれるかも知れない。
警察官も何のために取調べをするかと言えば、刑事事件として立件するため、つまり、有罪、かつ、より重い刑を科すために必要な供述調書を証拠として残す仕事をしているわけだね。そうすると、どう転んでも被疑者の人の有利なことばかりは書いてくれない。それどころか、上手く誘導されて本当にあった出来事よりも不利な事実が調書に書かれてしまうことがあるんだよ。

そ、そうなんだ・・・。

供述調書の訂正権・署名押印拒否

実際、「ポッポドゥ」のくだりでは、上手く言いくるめられちゃってたじゃない。
あと、供述調書は訂正する権利があるからね、事実の間違いや、ニュアンスの違うところがあれば必ず訂正をしてもらうように!
あと、署名指印をすると、裁判の証拠として強い効力を持つから、署名指印も弁護士と会うまではしなくていいよ。
刑事訴訟法上も拒絶した場合は署名指印しなくていいことになっているし、強制力はないんだ。

第198条1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

2項 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。

3項 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。

4項 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない

5項 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

刑事訴訟法

ほんとだ・・・。完全に乗せられてしまっていた・・・。
まな板の上のスライスポテト・・・。

う、うん・・・。そうだね(まな板の上のスライスポテト?)。

当番弁護士制度を利用しよう!!

弁護士はどう呼んだらいいの?今みたいに脳内に直接語りかけてくれる弁護士がいるの?

私みたいに脳内に直接語りかけてくれるタイプの弁護士はそんなにいないと思うから、正攻法でいこう。
当番弁護士制度を利用するんだ!
当番弁護士制度っていうのは、捜査機関によって身体拘束をされた方に対して、弁護士会が当日待機している弁護士を派遣して1回だけ無料で相談に乗ってもらえる制度だよ。
警察官に「当番弁護士を呼んでくれ」と言うんだ。

なんか、弁護士さんは忙しいからすぐに来てくれないってさっき・・・。

確かに、当番弁護士を呼んでから手続きもあるので、すぐには来れない可能性もある。でも、さっきも言ったけど、その間に誘導に乗って間違ったことを話してしまっては取り返しが付かないからね。
そういうときは、「弁護士が来るまで黙秘します」とだけ言えばいいよ。

あ、それテレビで見たことある気がする。「容疑者は警察の調べに対し『弁護士に会うまでは認否を留保する』と話しているとのことです」みたいな。

そうそう。やはりまずは専門家のアドバイスを受けてから!
警察などの捜査機関はぜったいに被疑者の味方にはなってくれないからね。

(さっきから一人でぶつぶつ話しているけど大丈夫か・・・?)

と、と、当番弁護士を呼んで下さい!!!!!!!!!

つづく・・・

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